5,バンブー教室冬期講習算数特訓コースについて
アメリカの精神医学会が発行する精神疾患の診断・統計マニュアルであるDSM-5の最新改訂版(DSM-5TR)が2022年に発行され、日本精神学会による日本語訳も大幅にリニューアルされて2023年9月に発行されました。そこでは発達障害が、新しく神経発達症と定義されています。神経発達症には知的能力障害(知的発達症/知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如多動症(ADHD)、社会的コミュニケーション症(コミュニケーション障害)、限局性学習症(SLD)、チック症候群、発達協調運動症、常同運動症が含まれます。
神経発達症に含まれる限局性学習症(SLD)は「効率的かつ正確に情報を理解し処理する能力に特異的な欠陥を認める場合に診断される」とし、正規の学校教育機関において初めて明らかになり、「読字や書字あるいは算数の基礎的な学習技能を身に付けることの困難さが支障を来すほどであることが特徴」とされています。限局性学習症(SLD)でも数の概念や計算、数学的な推論など、算数の領域に極端な困難さを生じるお子様は算数障害の疑いがあります。
算数の弱いお子様には、数処理といわれる「いち」「にち」「さん」と言った数詞と「1,23・・」の数字と具体物の「●」「●●」「●●●」を認知、認識して数的、言語的な処理ができる能力にその原因が隠れていることが多いのです。「いち」「に」・・は聴覚的な認知を必要とし、数詞や数字は言語的な理解の基本になります。それらの数処理に加え、文章題や図を使ったグラフ問題等に対応する具体物をイメージして、視覚的に空間で操作するような推論的な処理が重なった3項の関係は、算数の基礎となるものです。
小学校に入学してすぐに取り組むさくらんぼ問題は、この数処理を学ぶ学習です。バンブー教室のお子様方は就学前からこれらに苦手さがあり、5以上の数の足し算で必要とされる数の分解ができずに「くりあがり」「くりさがり」にたどりつけないお子様が多くいます。
これらに順番を表す序数性と、量を表す基数性の理解(数概念)をあわせた感覚的なつまずきで、小学校の算数の授業についていけないお子様方が、発達障害のあるお子様ではほとんどです。このことは中学校に進学した後、数学でも苦手さを生じることになるでしょう。特にLD傾向のお子様で算数障害がある人は、この2つの問題の克服が算数の学習のポイントになります。
「かず」は順番どおりに数える序数性の理解が重要で、認識した数字を「かず」の順番として考えられる感覚です。そして、その数が系列の中の順番を表していることを理解する感覚的な概念です。このことの理解が弱い人は継時的な能力が弱く、順番にならんでいる数詞や数字の理解が弱いのです。正確な数を把握する学習の習得に困難さが生じてきます。
また、「かず」を個数全体として理解する基数性の感覚が求められます。基数性は数が量を表すことを理解できることで、「大体のこのぐらい」と言った感覚的な概念です。基数性が弱い人は同時処理能力が弱く、まとまった「かず」を長さや大きさなどの量として、その違いに注目することができず「ある数より3倍長い」ということの長さが感覚的にわからず、ある数を取り出し、その数がしめす量を長さや大きさ、重さとして判別できる感覚が弱いのです。
このような感覚はワーキングメモリと密接な関係があります。視覚からの短期の記憶をワーキングメモリ(視空間的短期記憶)と言います。計算や文章題は、この記憶を長期の記憶に頭の中で移し、かずの繰り上りや繰り下がりを計算していく処理が必要となります。算数が苦手な人はこのワーキングメモリが弱いため、計算に苦慮します。「かず」を数えることに苦労して自然に数が数えられないので、数の順番や大きさを認識するためには数直線などの視覚的な手がかりが必須になります。それでは「かず」を数えることが自然にできません。これができないとワーキングメモリに負担がかかり、「1」と「いち」、「2」と「に」が結び付かないので文章題が解けないのです。そして文章題を解法するには「推論すること」が必要になってきます。文章題で書かれた文を読んで言語的な世界を、イメージの世界に置き換える処理を必要とします。数字や記号、文章に記された対象物などを操作して数式に置き換える感覚が求められるのです。
また、算数障害と言われるお子様の中には計算がどうしても苦手というお子様がいます。計算は暗算と筆算と分けて考えられますが、暗算は5や10の合成分解ができるようになることが必要です。筆算は繰り上がりやくり下がりなどの手続きの問題と、多数桁の数字の空間的な配置の意味がわかる必要があります。ワーキングメモリの弱さがあるお子様には、計算の手続きを明確に示す工夫やマス目のある計算ノートなどを使って、視空間的認知のつまずきを支援する指導方法や、教材の工夫が不可欠になります。
高学年になればなるほど手が付けられなくなるものが文章題です。算数・数学の文章題はLDの領域である「読む」「書く」「聞く」「話す」「計算・推論」の推論にあたるものです。算数障害での問題は文章が読めるということ以外に、算数における「統合過程」におけるつまずきがあります。これは算数における思考のプロセスで、問題解決における重要なステップです。問題を解く際に視覚的なイメージの「変換」ができると、異なる複数の事柄を解法するカギとなる、共通する観点を見つけ出し「統合」する過程に移行します。次に、立式に結び付く「プランニング過程」から立式を考える「実行」過程になるのです。その中でも「統合過程」非常に重要で数処理、数概念にもとづくイメージ変換の処理が、推論の能力として必要とされ、このことを、いかに彼らのつまずきに応じて支援するかが、算数、数学の指導のポイントになります。それには、解法までの行程における困難さの克服がポイントになります。その困難さに対する具体的な支援を個々のつまずきを把握して、算数的アプローチを段階的に踏まえて、進めていく必要があります。
学校教育における多くのお子様の学習無気力のきっかけは、算数のつまずきが起因している印象を持っています。お子様方の見えないつまずきを明確にしながら、的確な支援を実践する指導がバンブー教室の特徴です。