自然学園に在籍しているお子様を考えると、小学校入学時から椅子にちゃんと座れずに、絶えず横向きに足が机からはみ出してしまいおしゃべりが止まらず、貧乏ゆすりが多く、継続して先生の話を聞くことや課題に集中して取り組むことが苦手なので、結果的に授業妨害になってしまっているお子様が多いのではないかと思っています。このようなお子様は、まわりから「落ち着きがない子」、「勉強ができない子」とレッテルを張られがちで、当然先生からも注意される対象になりがちです。その結果、徐々にクラスメートからも浮いたような存在になり、クラスに居場所がなくなっているような疎外感を感じてしまうことが多くなります。そして、「不安・無気力」感に苛まれるようになり、自分でも無意識に学校に行くことが辛くなってしまうのだと考えられます。
「落ち着きがない子」と言われるような一般にADHDの傾向がみられるお子様は、このような特徴が見られ、他のお子様に比べかなり活動的でもあるので、思ったことをそのまま口にして授業中に先生の説明を遮ってしまったり、クラスメートの発言を中断させてしまったりして授業の進行の妨げになってしまいます。加えて、そのことさえ、自分では気づけないお子様が多いのです。また、学習課題に集中しなければいけない場面で、気持ちが持続できずに別のことに気がとられてしまい、授業とは無関係なことに取り組みだしてしまうような問題行動の多さも良く見受けられる光景です。
このような傾向のお子様にみられる共通した課題は、抑制する力が弱いと言うことです。抑制とは不適切な行動を考え、発言をコントロールする能力です。これにはワーキングメモリの弱さも関係していると言われ、そこが弱い人は、行動を抑制するために自身の課題へ注意を払うことを忘れてしまい、すべき行動を見失ってしまいます。それによって注意されることは十分承知している問題行動を繰り返してしまうのです。また、やるべき行動の優先順位をつけられないことも特性であるので、どうしても「やらなくてもいい行動」を「やるべき行動」より優先してしまい、結果的に同じ失敗を繰り返す結果になることもあるでしょう。
「お勉強ができない子」は、ワーキングメモリと言われる学習の基礎となる情報を処理するための能力である認知的スキルが問題になって、学習でのつまずきを生じているケースが考えられるのです。
発達障害の子どもたちは、視覚的な情報の方が入りやすいタイプが多く、目で見て理解することが得意な方が多いです。反対に目で見えないものを理解することが苦手で、話し言葉も理解することが苦手なタイプが多くいます。まわりの子が普通にできることができず、問題行動につながるケースも少なくありません。未学習でできないことも多い傾向にあります。この場合、彼らの特性を把握して彼らがわかるように伝え、正しい行動を教えてあげることが大切になります。
今回の講演会(シンポジウム)『不登校からの脱却』に参加していただいた卒業生は、小学生時代の思い出として「読むこと」、「書くこと」が苦手なことによって、先生の黒板に書いた板書を書きとることが苦手だったことや、黒板の連絡帳に記された明日の持ち物を確認せずに家に帰ってしまうことが多かったそうです。また、家に帰るとすぐにゲームに没頭してしまって忘れてしまうため、忘れ物が多く、先生にたびたび怒られていたことが小学校時に学校に行きたくなくなったきっかけになったと話してくれました。そのようなことが継続することで自分に自信がなくなり、緊張してクラスメートとも話すことができなくなり、クラスに居場所がなくなってしまったと当時を振り返ってくれました。
参加していただいたもう一人の卒業生は、認知発達の凸凹から生じる息苦しさがあり、「読むこと」、「書くこと」の苦手さや算数のつまずきから、通常級の勉強が苦しくなった小4の時期が特に酷かったとのことですが、学校で暴れたり、家で暴れたりを繰り返していたそうです。やがて、強い不安から強迫性障害の症状の一つである確認脅迫が強くなり、心配事に対して確認を繰り返す二次障害といわれる精神疾患になってしまったそうです。この症状が高等部に入学して1年生ぐらいまでは継続しており、レポート課題の提出について担任に対して確認することが多かったようです。
良くなったきっかけは、保護者の献身的な支えと適応指導教室の先生などの支援だったようです。環境の変化によって少しずつ精神的な負担が緩和され、気持ちが安定し、高校に進学する決断ができたようでした。高校に進学し、同じような悩みがある子どもたちと触れ合い、コミュニケーションがとれるようになり、友達が増え、クラスに居場所を感じられるようになると不安や緊張がほぐれ、前向きに学校生活を送れるようになってきたようです。その結果、少しずつ苦手だった勉強にも取り組めるようになり、学力考査で結果が出てくると自信がつき、自分を表現することができるようになったと話していました。
2人とも現在の会社でやりがいを持って働いているようです。まわりから認められ、会社に貢献している実感が得られることが、社会性の向上に大きく影響することを2人の話で実感することができました。不登校の実態の理解や当事者の心境、そして、環境や支援機関および保護者、教員の関わり方について大きなヒントを与えてくれたように思います。とても有意義な講演会になったと自負しています。