中学部:中学部通信10月号 学園長ブログ~可能性のとびら~-1

1、はじめに

スポーツの日の連休が明けて、少しずつ秋の気配も感じられるようになりました。また、台風の接近や低気圧の影響で体調的にも優れない子どもたちも出ており、中には朝起きられないこともあるようです。そして、先月よりコロナも流行しており、最近ではインフルエンザの流行もニュースで騒がれております。この時期は、寒暖差が激しく体調を崩しやすくなりがちです。学校行事の多い2学期の疲れが重なり、精神的にも不安定になりやすい条件があるので、日常生活から十分に注意する必要があるでしょう。

11月1日(土)と2日(日)にかけて、自然学園の学園祭である『思いやり収穫祭』を実施します。模擬店の内容や音楽祭の曲決め、作品展示などについて、一人ひとりの生徒が考え、全体で協力しながら本番に向けて一生懸命取り組んでいます。このスキルこそが社会で必要とされるグループワークの基礎的構造の根幹を支えるものであり、働くことの基盤となる「協働・協力・協調」の原点だと考えています。

 

2、自然学園第20回定期講演会の報告と発達障害者の一般就労の現状

「発達障害の子どもと生きる」

~発達障害の特性を生かして働くための家庭でのキャリア教育~

講演 松為信雄先生

9月7日(日)の午前10時より、春日部市役所のひだまりホールにて、東京通信大学名誉教授の松為信雄先生による定期講演会を開催致しました。

講演会でお話頂いた松為先生の現代のキャリア教育に関する考え方では『進路選択は「汽車に乗せる」から「自動車を運転」の時代になっている』こと、自分でエンジンをかけながら(動機づけながら)、道路を自分で探してゆく(自己決定してゆく)ことが求められていることを話されていました。そして、車のオーナーは自分自身であるとのことです。

自分の将来的な進路や夢は、両親など身近な第三者が決めることではなく、自分で考え決めていかなければいけません。そのためには、自己決定のプロセスが重要であり、自分で選んだ進路や職場において多くの充実感・達成感が生まれ、その結果、自己有用感・肯定感が育まれることで希望となり、将来への展望となることをお話してくれました。

現実的な問題として、企業に合理的配慮が義務付けられてはいますが、上記した自己有用感・肯定感が育まれ定着する職場を選ぶなら配慮がある職場を選ぶより、配慮が少なくても自分の適性を活かせる職場選びが必須になります。自己の特性やスキルをプロファイルしながらできる仕事を選択し、実際に経験しながらその選択が適正かどうかを見直し、自分のプロファイルに適合する職務設計をすすめることが能力の個人差が多い発達障害傾向の人たちには重要でその過程を自分で試行錯誤しながら自分自身で決定し自分のキャリアに責任を持つことが何よりも優先するキャリアの考え方であるとお話しされています。

実際に、障害者就労での人材を多く採用されている特例子会社であっても、普通就労で採用されている親会社から出向している人たちは、一定数を占めています。当然業務に対する特別扱いは期待できません。特別支援学校など少人数で教員の数も多く、手厚く指導を受けられていた環境から職場では一転する訳なのです。

最近、何社かの大手企業の特例子会社の社長・部長クラスの管理職の方々をはじめ人材開発や人事、研修担当の部署の方々がわざわざ弊校にお越しになってくださいました。卒業生の就職実績が前提になり、本校からの卒業生に対してかなり高い評価をしていただいていることが改めてわかりました。今後の連携の強化も含めて、授業見学と今後の採用の打ち合わせにわざわざ足を運んでくださいました。

来年の7月の障害者雇用促進法による法定雇用率が2.5%から2.7%に改訂されることに伴い、従業員の40人に1人の障害者の採用が37.5人に1人の採用に義務化されます。精神障害者は、2019年に正式に障害者雇用の対象になりました。2005年に発達障害者支援法が施行され、発達障害者の雇用は伸びていきましたが、現在では毎年のハローワークを通じての採用率は精神障害者が障害者雇用の半数を超え、雇用の主役になっています。

このような現状を背景に、その採用も通信制高校からの人材に注目が集まっています。いままでの障害者就労が認識されていた業務内容の中心は、知的なつまずきがある人たちでも業務の遂行がしやすいように、軽作業のラインなどの単純なルーティーンの業務が主流でした。作業はマニュアル化され、業務の手順は管理され、繰り返しの労働が課せられていました。発達障害であるADHD傾向の人たちは、多動的な傾向があるので、単純な繰り返しの業務は苦手です。現在はある程度の自己決定力に業務を委ねて、効率的なグループワークでの業務が推進されています。与えられた仕事をこなすだけではなく、業績になる仕事を自ら創出していく積極性やアイデアが彼らには期待されているのです。

現実問題として、キャリアを積みながら豊かな人生を歩むことには偶然性が大きく左右します。初めての職場で任された業務や人間関係の積み重ねが、自分にとってやりがいのある適職を見つけるもっと確かなプロセスであり、一つひとつの経験を前向きな努力で乗り越えた足跡が社会人として成長し、個人のスキルを育むことに繋がります。保護者が彼らのキャリアの道を拓き、レールに乗せて人生を共に歩むことは不可能であり、そのような時代ではないのです。

自分の意志でキャリアを重ね、その中で適職を見つけることが何よりも確実なキャリアアップの方法なのです。そのために、その場に応じたケーススタディを経て、自らのスキルや業務の効率化を図りながらより業績を上げるための工夫が職場では障害者就労といえども求められるのです。出退勤の自己管理や、一人で交通機関を乗り継いで出社できる能力やATMで給料を引き出せる能力は、働くための前提として企業への実習から当たり前のように求められるスキルなのです。

そのためには、家庭でのキャリア教育が重要になってきます。自分のことは自分でできる大人にするためには、自己決定力を養うことがキャリア教育の根幹であり、日ごろから子どもに役割を与え、その訓練を実践していく具体的な施策をお話ししていただきました。