中学部:中学部通信8月号 学園長ブログ~可能性のとびら~-3

4,家庭におけるSSTの重要性

自然学園中学部の在籍生で、発達障害傾向がある生徒の中には、特性として不安が強い人が多く、その結果として情緒の混乱を生じて不登校を経験している生徒も少なくありません。また、自分ルールが強く、相手の気持ちが理解できず、独りよがりに見える利己的な行動が目立つ特性も抱えています。そして、そのつまずきが見えない障害であることから周囲にも理解がされず、自分でもそのつまずきに気付かない人たちが多いのです。そうであれば、自己肯定感が少なく、自己理解ができず先の見通しがつきづらい子どもたちには「働くこと」の現実的な理解は、経験なしには難しい課題です。入試の段階において自分の意志で自立の必要性を感じ、就職を目標に入学を目指している生徒は、自然学園高等部の生徒の話を聞いても、この時点では何も考えられない、考えていないことが現実ではないでしょうか。

このスキルを育む教育として、公立の学校では小学校から高等学校を通じて10年以上前から子どもたちの社会的、職業的自立に向けて必要な基盤となる能力や態度を育てる「キャリア教育」が実践されるようになりました。このような状況に反して、発達障害傾向がある子どもたちの受け皿になっている通信制高校をはじめとした高等学校は、そのような生徒の受け入れや就労に対する進路指導があまりにも希薄で、彼らに対するキャリア教育は全くと言っていいほど進んでいない状況です。

では「働くためのスキル」とは、どのようなスキルなのか?どのようなことができれば、企業が求める能力を満たすことができるのか?その能力を業務の遂行力だと勘違いされている人は多いと思います。仕事は、入社してから覚えればいいのです。それより重要なことは、職場の適応力です。その力は職場での自分の役割を担う力であり、個人の自己決定力なのです。この力があれば、これからの人材不足を充分補って余りある能力が彼らにあると企業は考えているからです。その能力の基礎は、家庭での生活で育まれる力なのです。ソーシャルスキル(社会的スキル)とは、後天的に学習する能力であり、それを学習することがソーシャルスキル・トレーニングです。ソーシャルスキルは社会的な場面における対人目標を達成するために行われるもので、対人面において社会的ルールや相手の行動をイメージし、行動的・合理的に行動できる力を指します。ソーシャルスキルとは、言語だけではなく、表情や身振り、手振りなど非現実的なものも含みます。正しく実社会で必要とされる能力であり、企業就労はこの社会的スキルがなければ成立しないものです。

ソーシャルスキルは学習性の能力なので、それが身に付いていない場合、発達障害があるためにソーシャルスキルが身に付かないのではなく、「適切なスキルの未学習」「適切なスキルの誤学習」と考えることができます。ソーシャルスキルは、普段の生活で学べるものなのです。普段の家庭生活での取り組みこそ効果が発揮できるもので、ソーシャルスキルは通級や児童デイサービスなどのプログラムや授業の一環で学ぶのではなく、日常生活で自然に獲得できるものだからこそ、家庭生活での養育者との関わりの中で子どもを主体とした活動が重要になってきます。

家庭でのキャリア教育と言える家庭で実践できるSST(ソーシャルスキル・トレーニング)や、具体的なお子様との関わり方、育て方はどのようなことで育まれるのか。そこで育まれたスキルは働く力とどう結びつくのかを今回の定期講演会で講師をお願いした松為信雄先生の著書である『発達障害の子どもと生きる』の内容からかいつまんでいくつかご紹介させて頂きます。