3、自然学園 第20回定期講演会の報告と発達障害者の一般就労の現状
『「発達障害の子どもと生きる」
~発達障害の特性を生かして働くための家庭でのキャリア教育~』 講演 松為信雄
前回にも講演内容の概要はお話ししましたが、松為先生は「自分の将来的な進路や夢は両親など身近な第三者が決めることではなく自分で考え決めていかなければいけません。自己決定のプロセスが重要であり、自分で選んだ進路や職場において多くの充実感・達成感が生まれ、その結果、自己有用感・肯定感が育まれ希望となり、将来への展望となる」と、家庭でのキャリア教育に結び付ける話の前振りから始められました。
現実的な問題として、合理的配慮は企業に義務付けられてはいますが、上記した自己有用感・肯定感が育まれ定着する職場を選ぶなら、配慮がある職場を選ぶよりも、配慮が少なくても自分の適性を活かせる職場選びが必須になります。自己の特性やスキルをプロファイルしながら「できる仕事」を選択し、実際に経験しながらその選択が適切かどうかを見直し、自分のプロファイルに適合する職務設計を進めることが能力の個人差が多い発達障害傾向の人たちには重要です。その過程を自分で試行錯誤しながら自分自身で決定し、自分のキャリアに責任を持つことが何よりも優先する考え方であるとお話しされていました。
実際に障害者就労で多くの人材を採用されている特例子会社であっても、普通就労で採用されている親会社から出向している人たちが一定数を占めています。当然、業務に関する特別扱いは期待できません。特別支援学校など教員の数も多く、少人数で手厚く指導を受けられていた環境が職場では一転する訳です。最近、何社かの大手企業の特例子会社の社長・部長クラスの管理職の方々をはじめ、人材開発や人事、研修担当の部署の方々がわざわざ弊校にお越しになってくださいました。卒業生の就職実績が前提となり、本校からの卒業生に対してかなり高い評価をしていただいていることが改めてわかりました。今後の連携の強化も含めて授業見学と今後の採用の打ち合わせにわざわざ足を運んでくださいました。
来年の7月の障害者雇用促進法による法定雇用率が2.5%から2.7%に改訂されることに伴い、従業員の40人に1人の障害者の採用だったのが37.5人に1人の採用に義務化されます。精神障害者は2019年に正式に障害者雇用の対象になりました。2005年に発達障害者支援法が施行され発達障害者の雇用は伸びていきましたが、現在では毎年のハローワークを通じての採用率は精神障害者が障害者雇用の半数を超え、雇用の主役になっています。
このような現状を背景に、その採用も特別支援学校からの人材より通信制高校からの人材に注目が集まっています。今までの障害者就労で認識されていた業務内容としては、知的なつまずきがある人たちでの業務の遂行がしやすいように、ライン作業などの単純なルーティーンの業務が主流でした。作業はマニュアル化され、業務の手順は管理され、繰り返しの労働が課せられていました。発達障害であるADHD傾向の人たちは多動傾向があるので単純な繰り返し業務は苦手です。現在はある程度の自己決定力に業務を委ねて効率的なグループワークでの業務が推進されています。与えられた仕事をこなすだけではなく、業績になる仕事を自ら創出していく積極性やアイディアが彼らには期待されているのです。
現実問題としてキャリアを積みながら豊かな人生を歩むことは偶然性が大きく左右します。初めての職場で任された業務や人間関係の積み重ねが、自分にとってやりがいのある適職を見つけるもっとも確かなプロセスになります。前向きな努力で乗り越えた一つひとつの経験、足跡が社会人としての成長を促し、個人のスキルを育むことに繋がります。もう保護者が彼らのキャリアの道を拓き、レールに乗せて人生を共に歩むことは不可能です。そのような時代ではないのです。
自分の意志でキャリアを重ね、その中で適職を見つけることが何よりも確実なキャリアアップの方法なのです。そのため、その場に応じたケーススタディを経て、自らのスキルや業務の効率化を図りながら、より業績を上げるための工夫が障害者就労といえども職場では求められるのです。出退勤の自己管理や一人で交通機関を乗り継いで出社できる能力、ATMで給料を引き出す能力などは働く上での前提として企業への実習段階から当たり前のように求められるスキルです。
そのために、家庭でのキャリア教育が重要になってきます。自分のことは自分でできる大人にするためには自己決定力を養うことがキャリア教育の根幹であり、日頃から取り組むことが大事です。子どもに役割を与え、その訓練を実践していくための具体的な施策をお話ししていただきました。ご参加いただいた皆様にも改めて感謝申し上げます。