2、第17回自然学園『思いやり収穫祭』
卒業生座談会『僕たちの未来』についての報告
11月2日(日)は、卒業生とのシンポジウム『僕たちの未来』を、今年も「働いて知ったうれしさ~僕はこうして大人になった~」と題して実施しました。現在、企業で働いている卒業生の思いを講話形式でお伝えする企画で、毎年『思いやり収穫祭』の開催中に実施しています。今回は初日の開催となりました。卒業後に一般就労して大企業の特例子会社で働いている卒業生に参加していただき、座談会形式で話をお聞きする機会を作らせていただいています。小学校、中学校時代の自分のつまずきと向き合いながら、周りの上司や同僚、そして家族に支えられ自分がどう成長したのかを話してもらいました。そして、就労先での業務や職場での出来事、困ったこと、上司との関係、合理的配慮などの現実的な問題を率直に話してもらいました。通常級や特別支援学級に在籍している特別支援教育を必要としているお子様方が高校に進学し、「働くこと」を「これからどのように学び、将来的な自立を目標にしてキャリアを重ねていけば良いのか」、「学校教育から何を学べば良いのか」、進路選択における適切なアプローチの答えとして、高校選びのご参考としていただければ幸いだと感じています。
まずは自己紹介をしていただき、勤務している企業の紹介と、その企業でどのような業務に取り組んでいるかを私から簡単にご説明しました。特例子会社など障害者就労を積極的に取り入れている企業ではどのような業務を中心に取り扱い、そして、障害をもつ彼らがどのように業務に取り組んでいるかを理解していただき、発達障害者の就労の現状を知っては欲しいと思ったからです。また、精神障害者手帳を利用した一般就労での採用が障害者就労の主役を占める中で、業務内容や働き方、合理的配慮、条件等はどのような状況であるかなどご興味がある人が多い状況かと思います。
お話をお聞きすると、ラインやルーティンワークでの単一業務ではなく、グループワークによる作業を自分たちでスケジュール管理を行い、決められた日程で業務が遂行できるように日程管理も行い、自らの判断で役割分担や効率的な作業手順を取り決めて自主的に業務を遂行しなければならないことが分かりました。イメージしていた特例子会社の業務とは良い意味で隔たりがあり驚いていた人たちが多いようでした。
複数の卒業生からお話しを聞く中で、小学校や中学校でのいじめ、先生やクラスの対応が今でも心の傷としてトラウマになっていることが共通した悩みとして挙がりました。自然学園高等部に入学して学校に対する嫌悪感や不信感が払拭され、就職に向けての具体的な目標が見出すことができたこと、社会に出るために必要なスキルを学校生活を通して身に着けることができたことなどの話もありました。現在も会社や社会適応するために様々な苦労があることなど素晴らしい話をしてもらいました。
やはり、勤め出して間もない頃には、周りから嫌われないように気を遣って精神的に追い詰められていた話や、先輩との業務の人間関係の難しさ、キャリアアップする度に新しい課題に悩み、それを克服する過程における苦労話は来ていただいたお客様が強い興味を持って関心を集めた内容でした。
このような日常の業務から他者とのコミュニケーションや連携を必然的に学ぶことになり、そこから生まれる他者への敬意や感謝の気持ち、グループワークの大切さを卒業生が一様に口にしていたことに彼らの成長を感じました。自分のミスが周りの迷惑になり、企業の業績に影響することを理解し、責任感を持って業務に取り組む彼らの姿勢がその発言から垣間見られました。自分の業績が他者から認められ、同僚からも信頼され頼られることにより労働意欲が高まり継続していることを感じ取ることができました。さらに、そこから生まれる意欲は会社でのキャリアアップの意欲や具体的な展望に結び付いているようでした。
彼らが認知の偏りがあることを自覚して、自然学園在学中も学力向上のための努力や企業での指示を受けるためのメモを取る練習を積むなどの工夫を取り入れていたことも印象に残る話でした。
それぞれの卒業生がいまだに人間関係の不安を抱えながらも自然学園の高等部で培った経験を自信に変えながら、一つひとつの困難さを自分なりの方法で乗り越え、希望を抱いて社会で奮闘している姿と素晴らしい話を聞かせていただき、座談会の司会を務めていた私の胸も熱くなりました。幼い頃から自分自身のつまずきやそこから生じる誤解、周りの人たちの理解の無さと日々戦いながら生きてきた逞しさに私も勇気をもらいました。彼らにとって自然学園高等部は、知らない世界に挑み続け、これから出会う見知らぬ人たちと関係をうまく築き、自分の新しい世界を広げていくために必要な安全基地のようなものだということを彼らの話を通じて感じることができました。とても嬉しく思いました。
私は自然学園の学園祭である『思いやり収穫祭』で「僕たちの未来」を継続することで、社会に参加して懸命に働く卒業生の生き様が在籍生や特別支援教育を必要とされる子どもたちの気持ちを動かし、彼らの生きるための前向きな歩みが継承されていくことを希望します。発達につまずきがあり、社会的に適応できず困難さを抱えているお子様の保護者の皆さんや本人自身に少しでも勇気を与え、今後の就労に向けての意欲や希望をもてる座談会になることを期待してこの取り組みを始めました。
また、自然学園に入るまでの学校生活において学力面だけではなく、人間関係においても苦労したことや、精神的に落ち込み、先の展望や希望が見えずにあがきもがいていた時の話は参加者全員の心を打ちました。現在、社会の構成員としての自覚を持ちながら企業で仕事に従事して意欲的に将来の夢を持ちながら充実した幸福感がある毎日を送る彼らの姿に温かい拍手を送っていただきました。