4、家庭におけるSSTの重要性
自然学園高等部の生徒の皆さんは特性として不安が強い人が多く、その結果として情緒の混乱が生じて不登校を経験している生徒も少なくありません。また、自分ルールが強く、相手の気持ちを理解できず、独りよがりに見える利己的な行動が目立つ特性も抱えています。そして、そのつまずきが見えない障害であることから周囲から理解されず、自分でもそのつまずきに気付かない人たちが多いのです。そうであれば、自己肯定感が低く、自己理解もできず、先の見通しがつきづらい子どもたちには「働くこと」の現実的な理解は経験なしには難しい課題です。入試の段階で自立の必要性を感じ就職を目標に入学を目指している生徒にしても、現在一般就労している自然学園高等部の卒業生の話を聞いても、実習などの経験がない段階では何も考えられない、考えていないということが大半でした。
「働くこと」に関するスキルを育む教育として、公立の学校では小学校から高等学校を通じて10年以上前から子どもたちの社会的、職業的自立に向けて必要な基盤となる能力や態度を育てる「キャリア教育」が実践されるようになりました。このような状況に反して、発達障害傾向の子どもたちの受け入れ皿になっている通信制高校をはじめとした高等学校は、あまりにもそのような生徒の受け入れや就労に対する進路指導が希薄で、彼らに対するキャリア教育は全くと言っていいほど進んでいない状況です。
では「働くためのスキル」とは、どのようなスキルなのか。どのようなことができれば企業が求める能力を満たすことができるのか。その能力を業務の遂行力だと勘違いされている人は多いと思います。仕事は入社してから覚えればいいのです。そんなことより重要なことは職場への適応力です。その力は職場での自分の役割を担う力であり、個人の自己決定力なのです。この力があれば、これからの人材不足を充分補って余りある能力が彼らにあると企業は考えているからです。その能力の基礎は家庭生活で育まれる力なのです。
ソーシャルスキル(社会的スキル)とは後天的に学習する能力であり、それを学習することがソーシャル・スキル・トレーニングです。ソーシャルスキルは社会的場面における対人目標を達成するために行われるもので、対人面において社会的ルールや相手の行動をイメージし、行動的・合理的に行動できる力を指します。言語だけではなく、表情や身振り、手ぶりなど非現実的なものも含みます。正しく実社会で必要とされる能力であり、企業就労はこの社会的スキルがなければ成立しないものです。
ソーシャルスキルは学習性の能力なので、それが身についていない場合、発達障害があるからソーシャルスキルが身につかないのではなく「適切なスキルの未学習」「適切なスキルの誤学習」と考えることができます。ソーシャルスキルは普段の生活で学べるものです。普段の家庭生活での取り組みこそ効果が発揮できるものなのです。通級や児童デイサービスなどプログラムや授業の一環で学ぶのではなく、日常生活で自然に獲得できるものだからこそ、家庭生活での養育者との関わりの中での子どもを主体とした活動が重要になってきます。