大人の発達障害について(1)-大学部通信より-

アメリカの精神医学会が発行する精神疾患の診断・統計マニュアルであるDSM-5の最新改訂版(DSM-5TR)が2022年に発行され、日本精神科医学会による日本語訳も大幅にリニューアルされて2023年9月に発行されました。そこでは発達障害が新しく神経発達症と定義されています。それまでは発達障害支援法によって定義された発達障害はさまざまな発達の問題の併存が多く、その症状は通常低年齢で発現するものと定義されていました。

神経発達症には知的能力障害(知的発達症/知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如多動症(ADHD)、社会的コミュニケーション症(コミュニケーション障害)、限局性学習症(SLD)、チック症、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。

神経発達症に含まれる限局性学習症(SLD)は「効率的かつ正確に情報を理解し処理する能力に特異的な欠陥を認める場合に診断される」とし正規の学校教育機関において初めて明らかになり、「読字や書字あるいは算数の基礎的な学習技能を身に付けることの困難さが支障を来すほどであることが特徴」とされ「職業活動を含むその技能に依存する活動を生涯にわたって障害する」とされています。社会的コミュニケーション症(コミュニケーション障害)は、言語や対人スキルに問題があり、適切なコミュニケーションが難しい状態を指します。ASDや言語障害、発語障害なども該当します。社会的な相互作用や意思疎通にも影響を及ぼし、学業や職場での適応が困難になることがあるとされています。

上記のようにSLDのような症状が小中学校で明らかになっても知的能力障害(知的発達症/知的障害)ではなく平均のIQ値(知能指数)が高いケースのお子様は、算数・数学が他の教科に比べて苦手、漢字を覚えることが苦手ではあるものの学校教育では学力的には平均得点以上の成績があり高校、大学に進学した人も少なくありません。また社会的コミュニケーション症(コミュニケーション障害)にしても低年齢で発現後、学力的に大きな問題がなければ、不登校やひきこもりなどの問題行動がみられる2次的精神疾患がともなうケース以外は、「クラスでもおとなしい静かな子ども」「友だちをつくらない一人が好きな子ども」として問題なく学校生活を送ることができている人が多いでしょう。

従来の発達障害がある子どもは、IQ値が高く知的な能力がある子ほど、認知発達の凸凹が大きく学校生活における困難さや息苦しさが強くなると考えられています。だとすると知的に高い発達障害のお子様を軽度発達障害と呼ぶことはできません。

しかし一般的にはこのような状況の子どもたちを「軽度」と教育現場では取り扱われる状況があり、認知発達の凸凹から生じるつまずきに起因する、本人自身の生きづらさが理解されないケースが多いと思います。このように発達障害で「軽度」と見られる子どもの場合は集団でもある程度、適応できる子どもが多いため、大人になるまで、まわりもそのことに気づかないケースが多いのです。