算数が苦手な子どもたちの理由

算数が苦手なお子さんは、プリントに印字された数字を認識することが苦手で、数を数える学習に苦労します。数字などの視覚からの情報を頭の中に保持し(短期で記憶して)、数を数えて、量や大きさとして認識する(イメージする)感覚が必要とされます。

「かず」は順番どおりに数える序数性の理解が重要で、認識した数字を「かず」の順番として考えられる感覚です。そして、その数が系列の中の順番を表していることを理解する感覚的な概念です。この理解が弱い人は継時的な能力が弱く、順番にならんでいる数詞や数字の理解が弱いのです。正確な数を把握する学習の習得に困難さが生じてきます。

また、「かず」を個数全体として理解する基数性の感覚が求められます。基数性は数が量を表すことを理解できることで、「大体のこのぐらい」といった感覚的な概念です。基数性が弱い人は同時処理能力が弱く、まとまった「かず」を長さや大きさなどの量として、その違いに注目することができず「ある数より3倍長い」ということの長さが感覚的にわからず、ある数を取り出し、その数がしめす量を長さや大きさ、重さとして判別できる感覚が弱いということです。

このような感覚はワーキングメモリと密接な関係があります。

視覚からの短期の記憶をワーキングメモリ(視空間的短期記憶)と言います。計算や文章題はこの記憶を長期の記憶に頭の中で移し、かずの繰り上りや繰り下がりを計算していく処理が必要となります。算数が苦手な人はこのワーキングメモリが弱いため計算に苦慮します。「かず」を数えることに苦労して自然に数が数えられないので、数の順番や大きさを認識するためには数直線などの視覚的な手がかりが必須になります。それでは「かず」を数えることが自然にできません。これができないとワーキングメモリに負担がかかり、「1」と「いち」、「2」と「に」が結び付かないので文章題が解けないのです。そして文章題を解法するには「推論すること」が必要になってきます。文章題で書かれた文を読んで言語的な世界をイメージの世界に置き換える処理を必要とします。数字や記号、文章に記された対象物などを操作して、数式に置き換える感覚が求められるのです。WISCの補助指標として「算数」の下位検査を行うのはこのような能力を図るためです。